数年前、父が急性心筋梗塞で突然この世を去った。
ここ最近の父の写真はほとんどなく、唯一使えそうだったのは、息子のお宮参りのときに撮った家族写真だった。
普段からよく笑う人だったので表情は良かったけれど、
いつもは着ないスーツ姿が、遺影となった。
退職してからの父は、ヒゲをずいぶん伸ばしていて、久しぶりに会ったときはまるで仙人みたいになっていた。
遺影の父は仙人になる前。
でも実際の父は、白ひげをたくわえた仙人だった。
お葬式で父の顔をのぞき込んだ人たちは「えっ?!」と驚き、
家族が「そうなんですよ」と応えると、悲しみの中にも笑いが生まれた。
子供がそのまま大人になったような、そんな父らしい最後の姿だったと思う。
そのときは葬儀のことでバタバタしていて、深く考える余裕はなかったけれど、
元気なうちに仙人の父の姿を撮っておけばよかったな、と今になって後悔している。
子供が小さかったり、卒業や成人式などの節目には写真を撮るのに、
年を重ねると、本当に写真を撮る機会が少なくなるんだなと気づいた。
我が家は貧乏だったから、毎年写真館に行くような習慣もなかった。
カメラマンなのに、と思われるかもしれないけれど。
遺影のためじゃなくて、
親の写真を、家族の写真を、もっと残しておきたかった。